伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」とスティーブ・ジョブズ「伝説のスピーチ」と群像劇。人生では何が転機になるかわからない

2018年9月26日

アイネクライネナハトムジーク 表示

恋愛小説を書かない伊坂幸太郎による「恋愛もの」

伊坂幸太郎による、2014年の書き下ろし小説「アイネクライネナハトムジーク」
口にすると舌を噛んでしまいそうなその名前は、ドイツ語で「ある小さな夜の曲」という意味があり、かの有名なモーツァルトの楽曲のタイトルが元々。

小説は「アイネクライネ」からはじまり「ナハトムジーク」で終わる6つの短編からできている。
「アイネクライネ」、「ライトヘビー」、「ドクメンタ」、「ルックスライク」、「メイクアップ」、「ナハトムジーク」。

ここにヒーローはいない。さあ、君の出番だ。
奥さんに愛想を尽かされたサラリーマン、
他力本願で恋をしようとする青年、
元いじめっこへの復讐を企てるOL……。
情けないけど、愛おしい。
そんな登場人物たちが紡ぎ出す、数々のサプライズ!!
伊坂作品ならではの、伏線と驚きに満ちたエンタテイメント小説!

6つの短編に登場する登場人物が、場所を越え、時を超え、人と人がつながり、ストーリーが紡がれていく(SFチックに聞こえるけど、時は現代、場所は日本です)。

けれど、それぞれの物語自体もひとつの話としてちゃんとテーマがあり、起伏があり、喜怒哀楽がある読み応えのあるものになっています。
さすが伊坂幸太郎。

伊坂幸太郎曰く、

「夫婦というのは、長いこと一緒にいても同じようなことで喧嘩するものだなあ」とよく思うのですが、そこから発想が広がり、できあがったお話です。

「恋愛もの」を書かない(書きたくない?)伊坂幸太郎には珍しく、恋愛要素の多いストーリーが6編。発想の出発点が夫婦だったから、出会いのある物語が作られたんですね。

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「アイネクライネナハトムジーク」のできたきっかけは斉藤和義

この小説が「出会い」をテーマにして描かれたきっかけは他にもあります。

冒頭の「アイネクライネ」が作られたのは2007年。アーティスト斉藤和義からのオファーがきっかけにあったんですね。

斉藤和義さんの方から「出会い」をテーマにした曲の作詞の依頼があった。でも、作詞はできないと泣く泣く依頼を断るよりしょうがなく、その代わり小説をなら書けます。ということで書かれたのが「アイネクライネ」でした。

そんなきっかけなので、「普通だったらやらないことを小説中ではやりました」と伊坂幸太郎が語っています。
作中にふんだんに使われた斉藤和義の楽曲の歌詞は、登場人物の背中を押す重要なフレーズになっています。

ちなみに、斉藤和義が出会いをテーマに作った曲が「ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜」。youtube公式チャンネルには、「伊坂幸太郎とのコラボレーション曲。このコラボレーションように書き下ろした’出会い’をテーマにした短編小説「アイネクライネ」から斉藤和義がインスパイアされ完成させた」となっていますね。
作詞も連名でクレジットされています。

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スティーブ・ジョブズも言っていた!?「人生では何が転機になるかわからない」

ごくごく普通の人々の「出会い」をテーマに描かれた本作から伝わってくるのは、「人生では何が転機になるかわからない」ということ。
(小説の中で登場人物のひとりが言っているので探してみてくださいませ)

6つの短編は物語自体は独立していますが、ある短編の登場人物の行動や言葉が、別の短編の登場人物の行動や言葉に影響を与えています。
相手に影響を与えているとは知らずに。

これは群像劇形式の物語の醍醐味のひとつです。
劇中の人物には見えない繋がりが観客には見える。
繋がりが見えることでドラマを感じることができる。ちょっとした神様視点も体験できます。

ちょっと脱線。話を戻すと「人生では何が転機になるかわからない」。同じことをスピーチした有名人がいます。スティーブ・ジョブズです。

有名なのでこのスピーチ自体はみんな知っているかも思いますが、「点と点をつなぐ」の中で語るドロップアウトの話です。

やっと入った大学でドロップアウトし、普通だったら出なくてもいいカリグラフィのクラスに出て、美しい書体の作り方や歴史を学んだ。そのときにはそれがどんな意味を持つのかわからなかったけど、のちのちmacを作るときに活かされた。そんな話です。

スティーブ・ジョブズのスピーチでは、この体験のまとめとして、点と点は、あとから振り返ってはじめてつながっていることがわかる。だからいつかつながることを信じて、いま心からやりたいことをやろう。と続きます。

出来事が起こった時点では、だれも人生を変えるような転機なのかどうかわからない。
だとしたら、いまを、いまいる環境で、一生懸命できることを心の趣くままにやるしかないよね。と。

冒頭の短編「アイネクライネ」に登場する織田一真が語る「幸福な出会いについて論」が、本作のテーマの本質についてを言い当てているかもしれません。

運命の出会いってなんだろう?という話の件で、織田一真は言います。

いいか、後になって
『あの時、あそこにいたのが彼女で本当に良かった』って
幸運に感謝できるようなのが、一番幸せなんだよ

伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」

その時には気づけないんだけど、あとから振り返ってみたらわかる。そういうものなんですね。

ハードカバー版の小説に付けられている帯にこうあります。

明日が待ち遠しくなること間違いなし!
ごく普通の人たちが巻き起こす、
小さな奇跡の物語。

この小説を読むと「出会い」が素敵なものに見えてきます。
さらに、その出会いがすぐに身を結んだり結果がでるようなものではないかもしれない、とわかっていれば「意味のない出会いだったな」とがっかりすることもないので、帯にある通り「明日が待ち遠しくなること間違いなし!」です。

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小説「アイネクライネナハトムジーク」登場人物相関図

小説「アイネクライネナハトムジーク」の理解促進ために人物相関図を作ってみました。
本当は自分なりのまとめの意味の方が強いですが。
(ちょっと間違っているかも)

アイネクライネナハトムジーク人物相関図

2019年秋に劇場公開が決定!主演は三浦春馬

伊坂作品の映画化はいつも待ち遠しいです。今回は2019年秋。

メガホンを握るのは、「群像劇を描くならこの人」と伊坂幸太郎が指名したと言われる今泉力哉監督。
伊坂幸太郎曰く、

『こっぴどい猫』がとても味わいのある群像劇だったので今泉監督なら、この小説を面白い映画にしてくれるのではないかとお願いしました。
GAGA公式ページ

『こっぴどい猫』とは?

モト冬樹主演で2012年に公開された作品。21世紀型ダメ恋愛映画の旗手・今泉監督が、リアリティある空気感の中で描く珠玉のダメ恋愛映画。モト冬樹が演じる初老のダメ作家を中心にして、15人の男女・7つの三角関係が交差する群像劇。熟練の役者から演技初挑戦の大学生まで、出演者の個性をまとめあげた恋愛アンサンブルになっている。恋愛の本質をユーモラスに描いた恋愛群像劇。

脚本は、鈴木謙一。伊坂作品では「アヒルと鴨」や「ゴールデンスランバー」の脚本も手がけています。

そして主演には三浦春馬。ヒロイン役に多部未華子となっています。

主演の三浦春馬さんが演じるのは佐藤役。
詳しいストーリーについてはまだ発表されていませんが、公式ページを佐藤を中心に、6章からなる小説を映画化するようです。

多部未華子さん演じるのは本間紗季という女性です。
小説にはなかった名前なので「誰だ?」とも思いましたが、発表されたキャラクター設定を見ると何役かわかります。

偶然、佐藤と出会う女性。通称シャンプーさん。

ということなので、あの女性で決定ですね。たしかに映画にヒロインは必要です。

小説ではそこまで描かれませんでしたが、佐藤の恋愛事情が描かれるのでしょう。

佐藤の先輩・藤間役には原田泰造さん。

そのほかのキャストもぞくぞく発表されていますが、注目は斉藤さん役のこだまたいちさん。

斉藤和義本人のカメオ出演はなかったですが、こだまさんの本職はアーティスト。
どんな演技を見せてくれるのか楽しみです。

個人的には、なんの役か秘密になっていますが、宮城つながりでクレジットされているサンドウィッチマン伊達みきおさんと富澤たけしさんが
どんな役を演じるのか、「ちょっと何言ってるかわからないですけど」的な「カロリーゼロ」的なセリフがあるのかに興味があったりします。

6つの短編を盛り込もうとするとちょっと盛り沢山な気がしますが、今泉監督がどんな見せ方をしてくれるか楽しみですね。

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「群像劇=グランドホテル方式」

「アイネクライネナハトムジーク」はたくさんの登場人物によって物語を進みます。
主人公をひとりやふたりに限定せず、数人のキャラクターのストーリーラインを並行して進めたり、エピソードごとに異なる人物にフォーカスする作品のことを群像劇と呼んだりします。
英語ではアンサンブル・キャストとも言うようです。

また群像劇はグランド・ホテル形式とも言います。
ホテルのような一つの大きな場所にさまざまな人間模様を持った人々が集まって、物語が展開する方式のことで、映画「グランド・ホテル」で使われた手法のため、この名前で広まっています。

グランド・ホテル形式で作られている作品は、主役が決められていない分、見る側の見方によって、見どころや見え方があるので発見の多いのも特徴のひとつ。
そこが作品を豊かにするんですよね。
(ま、失敗するととっちらかっちゃうけど)

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これは見逃せない!必見群像劇作品

「アイネクライネナハトムジーク」を読んで、群像劇ってやっぱりおもしろいなと思ったので、「これは見ておきたい!」名作群像劇を少しだけピックアップしてみます。

「運命じゃない人」

PFFスカラシップ作品の映画。中村靖日さん演じる人のいい男が、思いもよらない事件に巻き込まれていく一晩の物語。
主人公の視点のみならず、取り巻く人々の複数の視点を巧みに構成して描くラストまで目が離せない、サスペンスありラブありコメディありの群像劇です。

「映画は構成が命」と言い切る内田けんじ監督が練りに練った脚本は、同じ時間の同じ場面が登場人物の視点が変わるだけで全く別物に変えてしまう、映画ならではの読後感を味あわせてくれます。

第58回カンヌ映画祭でフランス作家協会賞など4冠を受賞。国内も報知映画賞最優秀監督賞など8冠。

「クラッシュ」

クリント・イーストウッドの『ミリオンダラー・ベイビー』。その脚本を手掛けたポール・ハギスが脚本と監督した群像劇、それが『クラッシュ』(2004)です。
アカデミー賞でも脚本賞と作品賞を受賞しています。

クリスマス直前の36時間。その間にロサンゼルスにいる20人を超す人々の群像劇です。
人種差別をテーマにした問題提起を、さまざまな人を出すことで浮き彫りにする傑作です。

「ドミノ」

恩田陸が描くドタバタコメディ小説。
東京駅を舞台にしたオーソドックスなグランド・ホテル形式の物語です。

登場人物は、27名+1匹(なんの動物かは物語終盤まで明かされないので、読んで確かめてください)という大人数のアンサンブル。
出てくるキャラクターは多いものの、読み進めても迷子にならず内容を理解できる構成の妙は作者の手腕だと思います。

2001年頃の作品なので、改築前の東京駅舎や中央郵便局など、いまはない建物が舞台になっていたりして時代の流れを感じますが、
かつての現場を覚えている人にとっては「ああ、あそこのことね」と思い描きやすいはず。

400ページくらいの中にこれだけのキャラクターが登場するので、ひとりひとりの描きこみは深くなく、人間交差点というよりはドバタバシチュエーションコントに近い物語展開です。小気味好い小説をさっと読みたい。そんな時に楽しめる一作です。

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まだ見てないけど「これは見たい!」群像劇作品

バッカーノ!!

数々の群像劇作品を発表している人気ライトノベル作家成田良悟さんのデビュー作。
「バッカーノ!!」はライトノベル群像劇作品の傑作とも呼ばれているそうです。

禁酒法時代まっただなかのニューヨークで起こる「不死の酒」を巡る物語。
あらゆる人々と組織の思惑がニューヨークの街で交錯するストーリーは、聞いただけでワクワクしてきます。

ブギーポップは笑わない

西尾維新の小説を書くきっかけを作ったとも言われる作家・上遠野浩平。
その上遠野によって書かれた本作は、青春群像劇に加えミステリーやSFの要素が入った物語になっているそうです。

以降の作家に大きな影響を与えた群像劇作品というだけでも読みたくなってきます。

ちなみに上遠野さんは大変な「ジョジョ」フリークでも有名だそうで、本作の中にもたくさんのオマージュが込められているようです。

海炭市叙景

原作小説がありますが、観たいのは熊切和嘉監督による映画版の方です。

オムニバス的な感じが強い群像劇のようですが、さまざまな人が登場する話をまとめ上げる様子が映画的に描かれているようなので、その辺りを意識して観てみたいところです。

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群像劇のおもしろさは「人生の縮図」

たくさんの人がいくつもの物語を描く。
時間を超え、場所を超え、複雑に絡み合う群像劇はぼくらが普段暮らす世の中を映しているように思えます。

だれしもが主人公、だれしもが脇役。

ひとりひとりの物語が複雑に絡み合って、浮かび上がる大きな物語。
そんな発見や、視点を変えることで変化する物語の見え方。

そんな、おもしろいと感じる要素がぎゅっと詰まっているのが群像劇なんですよね。

最後に「アイネクライネ」つながりで。
小説とは関係ないですが、アコギの名曲・米津玄師の「アイネクライネ」を。。。
冒頭の逆再生やらサンプリングやらのギターがすごすぎる。

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